巻き爪の手術治療(フェノール法・陥入爪手術)

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巻き爪の手術治療について

セルフケアや保存治療でも改善しない場合、巻き爪(陥入爪)の治療の最後の方法として手術治療があります。手術というとなんだか大袈裟な感じがしますが、私は巻き爪の手術治療も、決して悪い方法ではないと思っています。手術については情報も少ないので不安をお持ちの方もいるかと思います。

手術は痛いのか?
どんな方法があるのか?
麻酔は効くの?入院は必要?
健康保険が適応となるの?

など皆さんが疑問の思っていそうなことも交えながら、このページでは巻き爪・陥入爪の手術治療について学びたいと思います。

またわからない事は【相談掲示板】からお気軽にご相談下さい

【記事執筆】
埼玉医科大学 形成外科 医師 簗 由一郎

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手術治療の目的

手術治療の主な目的は、爪の幅を狭くし爪が皮膚に食い込まないようにすることです。爪の幅を狭くするには、爪の両側で爪を取り除いたあと、その部分の爪が生えてこないように処理する必要があります。

爪を取り除いた部分で、爪の生産工場の役割を担っている「爪母」という細胞をやっつけて爪が生えてこないように処理します。

爪母を外科的にメスやハサミで処理する方法(鬼塚法、児島法など)と、薬剤を用いて処理する方法があり、フェノールという薬剤を用いる方法が「フェノール法」と呼ばれており、現在最も主流な手術法となっています。

その他にも、骨の形状を整え爪の変形を改善することを目的とした方法などもあります。全ての方法をここで紹介する事はできませんが、現在、私が主に採用している
フェノール法については詳しく解説していきたいと思います。
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専門医のワンポイントコメント
爪母は爪の生産工場です
巻き爪(陥入爪)の手術では、爪母の処理が大事なポイントです。この爪母を処理しなければ、爪はまた生えてきます。爪母の処理がきちんとできていないと、爪が一部生えてきたりするなどのトラブルになります。外科医の腕の見せ所と考えています。
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専門医のワンポイントコメント
どんなに丁寧に手術をしても、手術という不確定な手技をする上では、合併症がつきものです。患者さんからしてみれば合併症は手術失敗のように感じるかもしれませんが、防ぎようがないものでもあります。手術を受ける前はどんなリスクがあるか担当の先生からしっかりと説明を受けて下さい。

フェノール法

フェノール法(巻き爪手術)について

フェノール法は強い蛋白腐食作用を持つフェノールという薬剤を用いて、爪母細胞を処理し同部位の爪を生えなくする方法です。結果として食い込んでいた部分の爪が消失し(生えてこない)、爪の幅が狭くなります。

爪の幅が狭くなるので、巻き爪(陥入爪)の再発リスクが低下、矯正治療などに比べると根治的な治療といわれています。一般的に入院は不要で、日帰りの外来手術で行われる事が多いです。

痛みに関しては、麻酔の注射は痛みがあります。手術中の痛みはありません。術後の疼痛も少なく普通に歩いて帰宅できます。

フェノール法(巻き爪・陥入爪手術)のメリットとデメリット

フェノール法のメリットとしては、他の手術比べて簡便に行える痛みが少ない術後の安静が不要である感染を伴った場合も手術可能である点などがあげられます。

特に術後の安静が必要ないので、お仕事が休めない、学生さんなどで部活が休めない、などの事情があっても手術可能であるのは良いと思います。
専門医のワンポイントコメント
手術前に爪の幅が狭くなる事は十分に説明し、切除する前にどの程度切除するかを患者さんと一緒に確認すると良いと思います。一度しっかり手術をすれば、爪の事を気にせずにパンプスなど気軽に履けるようになるので、爪の幅が狭くなっても手術を希望される、という方も多くいます。

フェノール法(巻き爪手術)の費用

巻き爪の手術は健康保険の適応となります。通院や投薬も含めても手術費用は3割負担であれば通常片足(1趾)1万円以内に収まります。

自費の矯正治療などを何回も繰り返す事を考えれば、手術治療は費用負担が少ないと思います。

手術は高額というイメージがありますが、巻き爪に関してはむしろ健康保険が適応とならない矯正治療の方が費用負担が増える事も多いです。

また加入している生命保険や医療保険によっては日帰り手術の給付対象となる場合もあります。

フェノール法(巻き爪手術)を行なっている施設

フェノール法の手術治療を受けたい場合、診療科としては「形成外科」を受診すると良いと思います。

「形成外科」は数が少ないため、東京や大阪などの大きい都市では比較的すぐにみつかりますが、地方だと比較的大きい総合病院にしかない場合もあります。

また、施設によってはフェノール法を採用せずに後述する古典的な巻き爪手術を採用している場合もあります。

フェノール法は比較的簡便な手術なので、皮膚科や巻き爪を多く診察しているかかりつけのクリニックなどでも行っている場合もあります。

いずれにしろ受診前に電話で問い合わせをすることをおすすめします。
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フェノール法(巻き爪手術)の手順

(1)局所麻酔

まず手術時の痛みを取り除くために局所麻酔を行います。

局所麻酔は一般的に、足指の付け根の部分に麻酔の注射をして、足趾の神経をブロックする方法で行われます。

麻酔前もしくは麻酔後に消毒を行います。
局所麻酔

(2)手術デザイン

麻酔がしっかり効いていることを確認し、爪の陥入具合などを確認します。陥入や変形の程度に合わせて、切除する爪の範囲を決定します。
手術デザイン
(図の紫のライン)
専門医のワンポイントコメント
残った爪が長い時間をかけて変形することで再発する場合があります。切除する爪の範囲が大きければ大きいほど再発のリスクは少なくなりますが、見た目の違和感が大きくなります。患者さんの希望を確認しながら切除範囲を決定します。

(3)駆血

次に、手術の出血を少なくすることを目的に、患趾の基部を駆血します。

足趾全体を片手で圧迫し、静脈血を可能な範囲で減らし、ネラトンカテーテルや採血用のゴムで駆血します。

下肢虚血など全身状態に配慮し駆血の強さや使用するゴムの太さなどを調整します。
駆血
駆血により皮膚の色が白っぽく見えます

(4)爪甲の切除

切除する範囲の爪甲を、周囲組織から丁寧に剥離します。爪甲をデザイン通り基部までしっかりと切開し、爪甲を除去します。

この時爪甲が基部まできれに除去されていないと(爪甲の一部が残ってしまうと)、次の爪母処理の手順が不十分となり再発のリスクとなります。
爪甲の切除
爪甲の切除

①爪甲の表面および裏面を周囲組織から丁寧に剥離します

爪甲の切除
②デザイン通り爪甲を切開します
爪甲の切除
③爪甲の裏面を十分に剥離し取り残しのないようにします
爪甲の切除
④爪甲を取り除いたところ(黄色い矢印の部分が取り除いた爪甲)
専門医のワンポイントコメント
肉芽がある場合は、肉芽を剪刀で除去し、次の手順のフェノール処理を肉芽にも施行します。一見痛みが強そうですが、フェノールが痛覚の神経終末に作用することで、術後の痛みも少ないのがフェノール法の特徴です。

肉芽がひどい場合は、肉芽を切除してフェノールで処理します。

手術前
肉芽処理後

(5)フェノールによる処理

続いて、細綿棒にフェノールを浸し、余分なフェノールをガーゼなどで拭き取った後、
爪甲を除去した部分に挿入し、爪母に押し当てるようにしながら処置を進めます。

爪母は爪基部で外側に広がるように存在しているので、外側の爪母までしっかりと処理することを意識します。フェノールは腐食作用があるので、フェノールを入れる容器は金属製のものではなく、ガラスや紙製のものが望ましい。

処置の時間は文献により様々であるが、30秒を6回(合計3分)程度が標準のようです。

患者さんの状態に応じて時間を調整します。
①フェノールを細綿棒に浸す
①フェノールを細綿棒に浸す
②余分なフェノールをガーゼで取り除く
②余分なフェノールをガーゼで取り除く
③フェノールで爪母を処理する
③フェノールで爪母を処理する
専門医のワンポイントコメント
綿棒にフェノールをたっぷり浸すと、余計なフェノールが残存予定の爪母や周囲皮膚にも影響を及ぼすため、余分なフェノールをガーゼに吸い取らせる事で余計が合併症を回避できます。
また、フェノール処置の時間が長いほど再発のリスクは少ないですが、傷が治癒するまでの期間が長くなります。私は3分~5分の処置時間としています。

(6)フェノールの中和と洗浄

フェノールは強い蛋白腐食性をもつので、この状態で手術を終えると、残存したフェノールが術後も組織に作用し続け、傷の治癒遅延や周囲の皮膚炎などを引き起こす要因となります。

なので、フェノールの効果を中和し、よく洗い流すことが重要です。無水エタノールで中和後に綿棒を使って生理食塩水で洗浄します。
フェノールの中和と洗浄

(7)止血とドレッシング

術中は駆血しているため、出血はほとんどありませんが、駆血を緩めると出血します。
術後に出血しないようにバイポーラ(電気メスの一種)を使って止血をします。

その後軟膏を塗布しガーゼで覆って手術は終了となります。バイポーラを使わない場合は、爪甲抜去部にガーゼを詰めて圧迫しながら創部を覆います。

バイポーラでの止血
バイポーラでの止血
軟膏を塗布したところ
軟膏を塗布したところ
ガーゼを詰めているところ
ガーゼを詰めているところ

(8)術後の処置と通院

手術当日から歩行での帰宅が可能です。

術後の感染予防を目的として内服の抗生物質、痛み止め、処置用の塗り薬を処方される場合が多いです。

傷が落ち着くまで創部を湯船に浸ける入浴は控えてもらいますが、翌日からシャワー浴はOKです。

入浴時に創部も洗い流してもらい、ご自宅で軟膏塗布とガーゼ保護の処置を1日1回してもらいます。

私は、術後1週間前後で外来を受診してもらい、その後は2週間に一度程度の受診とすることが多いです。
術後2ヶ月の状態
術後2ヶ月の状態

巻き爪手術の経過について(フェノール法)

術後はご自身でガーゼ交換や軟膏塗布の処置をして頂く事になります。処置が不要になるまでの間、創部がどのような感じなるか事前にイメージ頂くと安心かと思います。

術後経過は個人差が大きいので、皆さんが同じような経過にはなりませんが、
参考にして頂ければと思います。
巻き爪手術の経過について 術後2ヶ月の状態
術前の状態です。
易出血性の肉芽もあり、陥入爪としては重度な状態です。
巻き爪手術の経過について 術中の状態
術中の状態です。
駆血をして肉芽を除去しフェノールで処理をしています。
巻き爪手術の経過について 術直後の状態
術直後の状態です。爪甲を取り除いた部分は無理に縫い閉じずに、自然治癒を目指します。
巻き爪手術の経過について 術後1週間の状態
術後1週間の状態です。術後1週間ぐらいまではガーゼへの薄い出血を伴う滲出はそれなりにありますが心配ありません。

アクティブな出血はありませんが、爪甲を除去した部分に
薄い出血塊があります。

自然に吸収されながら、創縮小することが予想されます。
巻き爪手術の経過について 術後1か月の状態
術後1か月の状態です。だいぶ落ち着いているのが分かります。

術後1週間~1か月でガーゼへの滲出が日に日に少なくなっていくのが分かると思います。

この時点では向かって右側はほぼ治癒の状態です。
巻き爪手術の経過について 術後1か月半の状態
術後1か月半の状態です。向かって左側の傷も縮小しほぼ治癒となりました。

おおむね1か月~2か月でガーゼに滲出がなくなった状態で、軟膏処置やガーゼ保護は不要となり治癒の状態となります。
巻き爪手術の経過について 術後2か月半の状態
術後2か月半の状態です。新しい爪が生え変わるまでは、残った爪は段差があるような状態で生えてきますが、爪の生え変わることで、平坦できれいな状態になります。
(爪の根本から薄ピンクのきれいな爪が生えているのが分かると思います)

フェノール法の手術動画

(1)字幕解説あり

音声解説はありませんが字幕による解説があります。

(2)20倍速動画

手術の流れが把握できます。

(3)ノーカット手術動画

編集をしていないので、手術の流れがリアルタイムで把握できます。

その他の手術について

フェノール法以外の外科的治療として広く用いられている方法は、鬼塚法と児島法です。

鬼塚法は1967年に鬼塚が発表し、児島法は1982年に児島がそれぞれ発表した方法です。どちらも外科的に爪母を取り除く事に変わりはありませんが、児島法は側骨間靭帯を温存し比較的低侵襲な手術治療です。(図)

これらの方法を以前は私も採用し、再発もなく良い結果が得らえていましたが、やはり、術後の疼痛や安静が必要である点が、患者さんにとって不便であると考え、近年はあまり採用していません。

ただ、例えば四肢麻痺の患者さんなど、もともと車いす生活で足の感覚も麻痺している場合などは、おおむね2週間後に抜糸すれば完治するこの方法は良い方法だと考えますし、決して悪い方法ではないと思います。

施設によってはフェノール法を採用せずにこれらの方法を採用している施設もあると思いますが、そういった場合も積極的に検討しても良いと思います。
鬼塚法(同一指に向って左側)と児玉法(同右側)
図 鬼塚法(同一指の向かって左側)と児島法(同右側)
菅野百合ほか:陥入爪の治療:外科的治療. PEPARS. 86:21-27,2014.より引用

まとめ

巻き爪(陥入爪)の手術治療、特にフェノール法について詳しく解説しました。フェノール法は術後の痛みや日常生活への影響も少なく良い方法だと思います。

爪の幅が狭くなるというデメリットがありますが、その結果巻き爪や陥入爪の再発リスクは少なく根治的な治療法です。